忘れてはいけない日

2019-08-28

あの日から

毎年必ずお稲荷さんを用意する

五目ごはんを詰めたやつ

 

あの日の朝

彼女は「お世話になりました」と

きれいに洗濯をして きれいに畳んだ

店のユニフォームを返しに来た

「本当にもうええの?」

まだ居て欲しかったからそういった

「はい、もういいんです」

その直後に彼女が自ら選んだ道

そのことを知ったのは

それから2日後だった

 

バックヤードの防犯カメラには

彼女と私の会話の様子が残っていた

残された彼女の最後の姿

このたった20分後

 

もっと何かできたのではないかと

自分を責めた

ここに書ききれないほどの後悔

何かしてやれたなどと思うのは

烏滸がましいと言い訳もする

何かしてしまったのではないかという

恐怖もある

答えなど出るわけもなく

ただただ毎年

お稲荷さんを用意する

 

 

あれは

あの日から半年後の冬だった

相変わらず仕事に追われる日々

夜中の3時に

信号のない真っ直ぐな田舎道を

1時間半かけて

車で店から家に帰る

 

一瞬

気を失った

視界の右半分に

対向車線のトラックが迫ってくる

けたたましくクラクションが鳴る

けれどそのクラクションすら

脳に届かないほどのショック状態

 

その中で

スローモーションのように

本当にそうなんだ

本当にそうだったんだ

トラックの運転席に

彼女の顔

聞こえなかったけど

口には「生きて」と

 

やっと脳にクラクションが届く

我に返ってハンドルを左に切った

幸い車同士の接触もなかった

先ほどまで彼女だったトラックの運転手に

「危ないやろ!」と怒鳴られるだけで済んだ

 

あの日から

毎年必ずお稲荷さんを用意する

五目ごはんを詰めたやつ

あの日 彼女が食べたいと

お母さんにねだった

大好物のお稲荷さん

 

お誕生日おめでとう

私は決して

忘れてはいけない